vol.49(2018.1)【特集】

シーズアスリート新春座談会
明日への扉 理想への道

シーズアスリート新春座談会


一2017年を振り返って 

川野 山下さん、去年シーズアスリートへ加入していかがでしたか?

山下 明るい職場で快適に仕事をしながら競技に集中することができました。練習時間を確保できたことで練習内容も記録も去年より良くなって、自己ベストを出せる手ごたえをつかんでいます。仕事と競技の両立は自分なりにできていると思いますが、講演会が不安ですね(笑)。競技での課題はやはり伴走者。自分のレベルが上がれば、それに合った伴走者が必要になりますから。

工藤 今後、やはり伴走者のレベルアップも必要?

山下 ブラインドマラソンは、テニスに例えるとダブルス。私が競技力向上を図るのは当然ですが、同じように伴走者にも競技力向上を求めなければいけません。ともにレベルアップができれば確実に記録は伸びていくはずです。

信沢 伴走者の方はどのように探しているのですか?

山下 基本的には人伝いに探しています。色々な場面でお声掛けすることで、多くの方から情報をもらえるように心がけています。

川野 城間君は一年を通してどうでした?

城間 私は満足のいく結果を残せなかったので、今年は練習内容を見直していくつもりです。課題は、試合前に熱が出るなど体調を崩しやすいこと。自分の弱さが出ているのかなと思います。

工藤 じゃあ、原因は緊張かな。

浦田 メンタルトレーナーなどのアドバイスは?

城間 そういった専門の方は所属チームにいないので、選手同士で話し合ったりしています。

川野 自信をもって臨めていないということかな。私は実力が自分と同じくらい、または格下の選手と戦う時「負けられない」って緊張することはありますけど。小西 さんどうですか?

小西 私はレースであまり緊張しないんです。競る相手がいれば負けたくない気持ちが強くなっていい結果が出やすいけど、完全な格上の選手に対して気持ちを盛り上げるのは苦労しますね。去年は一番の目標だった世界選手権に出場できたのですが、練習を十分に積んで気持ちもすごく充実していたのに結果を出せず、実力不足を痛感しました。練習量以外の課題があると思っています。

川野 ゴールボール女子はアジア王者に返り咲き、世界選手権の切符を手にしましたね。

小宮 リオパラリンピック後に取り組んできたことがチームも個人も結果につながっていて、やはり積み重ねが大事だとあらためて実感しました。メンタル面は私個人の課題でもあります。不安があるとプレーに影響するし、弱気はボールに伝わってしまう。だから練習の時から強気で臨み、言葉にも出すようにしています。

工藤 でも「痛~い」と言ってしまう(笑)。

小宮 ボールが顔面に当たったときはつい(笑)。「わっ」「痛い」などと口にすれば相手にすきを与えてしまうので、コーチにも注意されます。

浦田 アイシェード(目隠し)にボールが当たって位置がずれた場合、審判に申告しないと手で触れられないのですが、そうしたら同じ選手の顔をもう一度狙うのがセオリーです。私はこの1年でチームの組織力が上がっていることを実感しました。6人の代表選手はレギュラー3人、控え3人という位置づけではなく、全員に明確な役割があるんです。私はディフェンスで引っ張る、全ポジションをこなせる小宮さんは状況に応じて必要な力を発揮するといった、一人ひとりが次の選手にバトンをつなぐ戦い方が今できているのでさらに磨いていきたいです。メンタル面については「完璧な人間はいないのだから100パーセントに近づけよう」という気持ちでいれば伸びしろを感じられるし、ミスしても新たな弱点が見つかったとプラスに考えられます。そうやってコントロールしていますね。

川野 信沢さんは、メンタル面で気をつけていることはありますか?

信沢 私は大会前にいいことを考えられないタイプなので、悪いことはすべて想定して臨みます。「これができれば大丈夫」というものをもったうえで。ルーティンとしては試合前に30秒間、ゴールポストやクロスバーに手を当ててお祈りをします。

川野 その間は無心?心で何かつぶやく?

信沢 「お願いします、助けてください」と。

浦田 じゃあ、試合後にはお礼を言うの?

信沢 えっと・・・言わないです(苦笑)。これからは言うようにします。

川野 経験豊富な先輩ばかりなので、城間君もこれからぜひ学んでいってください。

城間 はい、ありがとうございます!

信沢 私は去年ウエイトトレーニングを本格的に始めて、1日2~3試合やっても投げるボールの勢いがあまり衰えず、疲れも翌日にあまり残らなくなりました。チームはAP(アジアパシフィック)選手権3位で世界選手権の出場権獲得という目標を達成できませんでしたが、敗戦を引きずらずに次の試合に集中して勝てた点で成長できているかなと思っています。

工藤 話を聞いていると、良し悪しが半々くらいかな。みんなが東京2020大会を目指すうえでは、成功体験の積み重ねが重要だと思っています。失敗したままでは絶対に成長はありません。男子は AP選手権で決勝進出に手が届きかけていた。残り3分で2点リードしていたのに3失点。勝っていれば大きな成功体験になっていたんです。信沢君はあの場面でプレッシャーを感じていた?

信沢 このままいければ勝てる、このまま終わりたいと思って少し神経質になったかなと思います。

工藤 勝つ力はあるのに6割程度しか出せなかった。そこを乗り越えることが課題であり、楽しみでもありますね。

信沢 残り6分くらいに交代した選手に3点とも決められたのですが、最初は適当に投げている感じだったのが明らかに速いボールに切り替えてきた。それで守備の動作が遅れてしまったんです。そういうギアチェンジというか、捨て球を交えたメリハリのある攻撃も必要と思うのですが。

工藤 1球ずつ意図があって、気持ちも込めて投げているので本当の意味での捨て球はないけど、布石になるボールと決めにいくボールの使い分けができれば心身ともに余裕が出るの確かだね。

信沢 テニスで捨て球を打つことはありますか?

川野 乗り切れない気持ちを吹っ切るため、入るかどうかを気にせず思い切り打ち込むことはありますね。

信沢 共通している部分がありますね。川野さんは昨年を振り返っていかがですか?

川野 去年は競技生活13年目で初めて新しい車いすに乗り換えました。メーカーを変更してタイヤを大きくしたのですが、タイヤは大きいほど負担がかかって体力を消耗するので、乗りこなすのに必要な体力と技術の向上に引続き取り組んでいきます。

工藤 手ごたえは?

川野 以前の車いすを100パーセントとすれば70パーセントくらいですね。ただし確実に上がっていくという手ごたえはつかんでいます。

小宮 車いすを大きくすると何が変わるのですか。

川野 サービスの打点が高くなることで安定感が増して、より高く跳ねるスピンボールに対応しやすくなるし、1回漕いで進む距離も長くなります。小西さんも去年レーサー(競技用車いす)を新しくしたんですよね。

小西 5センチ長くして半年間試したのですが、数センチ違うだけで感覚がまるで違うんですよね。それで世界選手権に出たら今ひとつだったので、元の長さに戻すことにしました。

浦田 どうして長くしようと思ったの?

小西 直進性を高めるためです。特に短距離ではむだなく真っ直ぐ走る必要がありますからね。

 

一シーズアスリートの在り方

川野  10年ほど前に比べれば今は企業が選手の雇用に積極的で、練習環境も充実しています。国内のプロ選手が増え、海外のライバルだけマークすればいいというわけにいかなくなりました。自分もよりよい環境を作り、練習の質を高めていかなければなりません。仕事と競技の両立というシーズアスリートの理念はそのままに、しかし競技にもっとウエイトを置いていかないと東京2020大会で結果を残せないのではないかと思っています。

浦田  川野さんが言うように、競技を続けることさえ難しかった時代と比べてさまざまな面で追い風が吹いていて、恵まれているのは確かです。しかし、応援していただくことが当たり前になってはいけない。感謝の気持ちを忘れず、結果にこだわることが絶対に必要ですよね。仕事と競技の両立というのは、同じように時間を費やすことではなく、仕事にも競技にも責任をもつということ。各選手が自身の仕事と競技のバランスを組み立て責任を持ち、実行していくべきことです。でも、それを保てなくなったときに相談して取り組み方を見つめ直し、お互いを高め合う。それがシーズアスリートというチームの強みになればいいなと思っています。

工藤  ここにいるメンバーと事務局、スタッフがチームとして成長し、結果を追求できる集団にならないといけないと思います。根や幹が強くないと立派な花が咲かないように、土台がしっかりしていないと選手は成長して結果を残すことはできな い。だから、みんなが競技に専念できるようシーズアスリートの環境や体制などをすぐにでも強化していく必要があります。みんなに覚えていて欲しいのは練習時間を割いて会員様を集めるのではなく、応援していただけるファンを増やすという考え方です。結果を出せば周りの環境や関わる人が変わり、ファンの数も増える。そうした新しいご縁をいただいたときに活動のチャンスが広がり、土台もより強くなる。もっと競技に専念しやすくなって、東京2020大会でみんなが輝くことができるのかなと思っています。

 

一2018年の抱負

川野  今年の抱負を一人ずつお願いします。

小西  私は「自分を超える」です。東京2020大会の選考期間に入る来年は常にいい記録を出せる状態にしておきたいので、鍛練を積むという意味で今年を勝負の年に位置づけています。練習のための練習にならないよう、あくまで結果を出すために努力を確実に積み重ねて去年の自分、昨日の自分を超えていきます。

 

川野  自分を超えるため最も必要なものは?

小西  体力は以前より増しているのですが、それをもっと生かすことができていれば納得のいく記録を出せていたはず。だから、力を確実にレーサーへと伝える練習が必要だと思っています。

城間 「自分を信じ勝利へ前進」にしました。練習内容を見直してしっかりと取り組み、その成果を本番で発揮すること、またメンタル面でも努力してきた自分自身を信じることができれば、勝利にも近づけると思っています。

川野  記録での具体的な目標はある?

城間  100メートルの自己ベスト16秒00を更新したいです。

 

工藤  次に目指すB標準記録はどれくらい?

城間  15秒です。

川野  1秒縮めるのは大変だけど頑張ってね。

山下  今までと同じことをしていては十分なレベルアップは望めない。さらに大きな変化が必要だと思って「さらなる変化と進化」にしました。すでに練習内容などいろいろな面で見直しを進めていますが、今年は何事にも質の高さを追求していきます。タイムの目標は日本ブラインドマラソン協会のB標準記録、2時間42分です。

工藤  自己ベストを5分ほど更新すると。

山下  そして最終的には、パラリンピック出場の目安とみている2時間30分を狙っていきます。

浦田  抱負は「日々是鍛錬也」。日本女子が達成できていない世界選手権でのメダル獲得に向けて1日1日鍛錬を積み重ね、悔いのない毎日を過ごしていきます。仕事と競技との両立における時間配分もそうですが、悔いを残さないためにその時々で必要なことと、そうでないことを的確に判断していきたいです。

小宮  私は「明るく笑顔に喜んで一歩前進」にしました。選手がコートで輝くことができるのは、シーズアスリートの事務局や会員様、応援してくださる方々、監督、コーチ、チームメイトのおかげです。世界選手権でのメダルを勝ち取るためにも、現状を見直し、さらに変化と進化をとげ、みんなの思いを喜んで受け止めながら、楽しく前進していこうと思っています。

信沢  ズバリ「決断」です。代表としての目標は世界選手権でのメダルを取ること。でも決断というのは個人的な意味合いが強く、たとえば国内の所属チームを変えようと考えています。今まで代表選手3人で練習や試合に臨んできたのですが、どうしても彼らに頼ってしまう部分があるので、自分の実力をもう一段階上げるため挑戦する側に回り、そして勝つと。そういう決断の年にしたいです。

工藤  先ほど言ったように成功体験を積み重ねることが自信となり、成長につながるということで「喜びの積み重ね」にしました。喜びを味わうためには限界を超える努力が必要です。一生懸命に取り組むほど、その過程がつらいほど喜びが大きくなります。だから100パーセントの努力を心がけたいし、みんなもそうしてほしいですね。しかし、小宮さんが言ったように楽しくやることも大事で、男子チームはオンとオフの使い分けが必要です。若手には何事にもチャレンジして失敗を恐れないこと、試して失敗しても決して無駄にならないことを伝えていきます。信沢君が所属チームを変えるのもいいことだと思いますね。2~3年前まではウエイトトレーニングを勧めても、まったくやろうとしなかったけど(笑)。

信沢  すみません(苦笑)。

川野  私の抱負は「一球入魂」です。自分のトレーニングを振り返ると、試合と同じ気持ちで臨んでいるつもりでも実際はできていない。ボールに魂を込めていないと反省したんです。技術的なレベルアップも大事ですが、気持ちだけは誰にも負けないよう常に魂を込めてボールを打とうと思い今年の抱負に決めました。そうすることで信沢君のお祈りの話じゃないけど、ボールがネットにかかって相手側のコートに落ちることだってあり得ますからね(笑)。

工藤  みんなが今日話したことが、お互いに少しでも参考や刺激になればいいなと思っています。

川野  そうですね。いい1年にしましょう!

一同  はい!

 


はやし・たかき=文

フリーライター。1969年福岡県出身。2000年「月刊ホークス」誌の創刊に参画。以後、福岡ダイエーホークスおよび福岡ソフトバンクホークスファンクラブ会報誌、オフィシャルイヤーブック、「スポーツ報知」紙などで記事を執筆。