vol.53(2019.1)【特集】

特集 世界を見据えて、アジアの頂を目指して
~インドネシア2018アジアパラ競技大会 総括~

4年に1度の祭典、インドネシア2018アジアパラ競技大会に4選手が出場。
ゴールボールの小宮正江と浦田理恵が全勝優勝で金メダル、車いす陸上の小西恵子が100mと200mで銀メダルを獲得し、車いすテニス(クァード)の川野将太もシングルスのベスト4に入った。
東京2020大会へ続く、その戦いを振り返る。


ゴールボール女子[小宮・浦田]
“有言実行”宿敵中国に連勝!全勝優勝!!

―大会に向けて重点的に取り組んだことは。また意気込みは。

小宮
今回はチームで全勝優勝という目標を掲げていました。
攻撃面で特に取り組んだのは、ストロングポイントといって自分の得意なコースにしっかり投げ込むことです。

浦田
6月の世界選手権が終わって各自がディフェンスを修正する中で、私もボールを持つ姿勢を大きく変えました。
以前は床にお尻をつけず、ひざをついた状態からスライディングしていたのですが、体が上の方に飛んでしまう癖があったんです。
それでおしりをつけてボールを持つ姿勢に変え、それがどこまで通用するのかを試しながら無失点に抑えることを個人の目標にしていました。

 

―小宮さんも姿勢を変えた?

小宮
私は今までの姿勢で大きな問題がなかったので。少しだけ低く構えるようにしました。

 

―初めてのインドネシア、大会の雰囲気や会場の様子は。

小宮
実は、試合が行われたのは披露宴会場だったんですよ(笑)。天井に素敵なシャンデリアがあったみたいです。

浦田
大広間のじゅうたんの上にタラフレックスという床材を敷いていました。でも、とても素晴らしい会場でしたよ。

小宮
ボランティアの方々が常に笑顔で出迎えてくれて、こちらも自然と元気になるような良い雰囲気でした。

浦田
大会を成功に収められた大きな要因だと思います。

 

―全勝優勝を目指す上で最大の敵はやはり中国。

浦田
選手層が厚く、全員が強いボールを投げられる。すごく動きの早い選手もいるし、以前はあまりやっていなかった移動攻撃もありますから。

小宮
攻撃力のレベルは日本より完全に上だと思います。

浦田
中国が強敵なのは確かですが、どの国に対しても気を緩めず臨みました。結果的にイランに6対2、タイには7対2で勝ちましたが、どちらも昨年より攻撃力が上がっていましたね。

 

―中国には予選で4対3で勝利。シーソーゲームだった?

浦田
点を取って取られて・・・。

小宮
取って取られて・・・。

浦田
取って取って突き放した、という展開でした(笑)

 

―予選を全勝で突破し、決勝では中国に5対3で再び勝利。有言実行の全勝優勝でした。

小宮
正直言ってよく全勝できたなと思っています。

浦田
目標にしていたとはいえ、どんな大会でも全勝優勝はすごく難しいことですから。

小宮
どんな相手に相手が強くても弱くても、勝負はどこでどう転ぶかわかりませんし。

浦田
ひとつのプレーや流れで変わってしまう怖さを嫌というほど知っていますし(苦笑)。

小宮
目標を達成できたことは、チームとしても個人としても大きな自信になります。

浦田
間違いないですね。

 

―当然、中国との決勝には予選での戦いを踏まえて臨んだ。

小宮
試合前に選手やスタッフと予選での中国戦のビデオを見返したんです。
「この場面はこうだったから、こうしたほうがいい」といった話をした上でコーチの指示を確認し、全員で勝つイメージを高めて臨めたことが大きかったと思います。

浦田
以前より意思疎通や、イメージの共有ができるようになっていますね。

 

―小宮さんは中国戦で、予選、決勝とも2得点ずつ挙げています。

小宮
しっかりとストロングポイントで得点できました。

 

―勝因を攻撃面からみると?

小宮
左右のウィングで、互いにボール位置やコースを分かりづらくするフェイクを行うなど、移動攻撃を交えることができたのも勝因のひとつといえます。

 

―守備はどうでしょう。新たな課題も見つかったのでは。

浦田
3人で作る壁の精度をもっと上げていかないといけませんね。
個人的にも、修正した姿勢でこの速さのボールを受けるとこうなる、タイミングを外されたらこうなる、といった発見と反省がありました。
勝つためには攻撃と守備のバランスが大事なんです。今回はそれぞれがコントロールの精度を磨き、得点力を上げることができました。
得点力は上がっている。でも、なかなか得点できない状況が必ずある。その時は守って我慢しなければならないんですね。
あらためて、ディフェンスを日本の強みとして磨いていきたいと思いました。

小宮
私個人も、もっとディフェンスでチームに貢献していきたいですね。
攻撃面でも、私はペナルティースローを投げさせてもらう機会が多いのですが、どんな場面でもきわどいコースへ正確に投げられるよう心・技・体の強化の必要性を感じました。

 

―お互いのプレーについては。

浦田
小宮さんは決勝でナイスカバーがあったんですよ。
1点で流れが変わりかねない状況で、後ろに弾かれたボールを回り込んで2回防いでくれたんです。

小宮
決勝での中国の攻撃は本当にすごかったですね。我ながら、よく3失点で抑えられたなと思うくらいです。
そんな状況で全勝できた私は、とても強運だと思います。(笑)

浦田
普段の練習での取り組みが体に染みついているということですから。さすがです。

小宮
ウイングとしては、センターの浦田さんが抑えてくれるからこそ攻撃できるんです。
失点はありましたが、大会を通して守護神としての役割をしっかりと果たしていました。

 

―お互いに褒めあっていますが(笑) 注文はありませんか。

浦田・小宮
私たち、褒められて伸びるタイプなので(笑)

 

―次の国際大会は2月のジャパンパラですね。

小宮
トルコ、アメリカ、ブラジルが参加します。

浦田
リオパラリンピック の金、銅、4位という、いま対戦したい強豪ばかりが揃う贅沢な大会です。
それも、日本に来てもらえるなんてなかなかありません。

小宮
本当に楽しみですね。

浦田
いずれにしても、2020年から逆算して目の前の課題に丁寧に取り組む。その積み重ねですね。
今回できたこととできなかったことの両方を踏まえて、次の一歩につなげていきます。

小宮
チームも個人も、まだまだ課題はありますからね。

小宮・浦田
引き続き応援をよろしくお願いします!

 

車いす陸上 [小西 恵子]
銀メダルを取れたとはいえ、あらためて世界との差を痛感

確かな手ごたえを感じながら

初出場となった今大会に向けては、自己ベストを更新できたスイス遠征前に近い調整をして挑みました。
コンディションは上々で、課題であるレース後半の走りへの手ごたえもありました。
後半にスピードが伸びない原因は、ハンドリム(後輪の漕ぎ手の部分)に対しての力を伝える方向が、原因の一つだと思っています。ハンドリムを時計に例えた時に、6時の向きで一番力が入りがちなのですが、そうすると下方向の力になってしまうほか、体勢も後半になるにつれて潰れていき小さな動きになってします。目指しているのは、12時から3時の向きに一番力を伝えて前方向の力にかえること。
そうした点に注意してスピード練習などを積んだ結果、まだ改善点はあるものの1年前よりも明らかに改善できていると感じました。

 

絶対にメダルを獲る!

初めてのインドネシアは確かに暑かったのですが、レースは2種目とも夕方だったので特に暑さの影響はありませんでした。
問題を感じたのは、トラックの重さです。柔らかい素材のトラックだったのでタイヤがめり込む抵抗感があり、走りが重たく感じられました。
スピードが出にくく、良いタイムは狙えないと感じたので、タイムよりも確実に順位を狙おうと気持ちを切り替えました。大会前のランキングからすれば2位で、メダルが狙えるところにいましたので、“絶対にメダルを獲る!”と集中しなおしました。
トラックが重いことやタイムが出にくいことばかりに気をとらわれていると体の動きにも影響が出てしまいますし、どの選手も皆、環境は同じですから。“体調もいいし、練習で取り組んだことをしっかりと発揮しよう”と自分に言い聞かせて本番に臨みました。

 

込み上げてきた悔しさ

タイムは100m、200mとも予想通り伸びませんでした。仕方がないと思う反面、大きなミスもなく現時点のベストの走りが出来たのに、この程度のタイムしか出せなかった悔しさが後からこみ上げてきました。本当に速い選手は、トラックや天候といった外的要因にあまり影響されません。
実際、自己ベストとあまり変わらないタイムで走った選手も多くいました。2種目とも金メダルだった中国の選手とは、スタートしてすぐに離されています。レース後、動画で振り返ると、スタートの1漕ぎ目から10漕ぎ目の間で決着がついていました。つまり、同じ回数を漕いでも進む距離が全く違うということです。銀メダルを取れたとはいえ、改めて世界との差を痛感しました。
それでも悲観はしていません。大会後にトレーナーから「車いす陸上は道具を使う競技だから、然るべきところに力を伝えさえすれば必ず速く走れる。」「体格が近いアジア圏の選手同士、狙えないタイムじゃない。」と言われました。その言葉を前向きに受け止め、また昨年自己ベストを更新して調子も上向いている状況なので、もっと質を高めた練習を励んでいきます。
すでに、東京2020大会の選考は始まっています。好タイムを狙やすい競技場での大会が今年前半に集中しているので、積極的に出場して、この冬の練習の成果を発揮し、更なる更新記録を狙っていきます。(小西恵子)

 

車いすテニス [川野 将太]
リードした場面もあり悔いが残るが、同時に強い手ごたえも

初めてのインドネシアで、メダルをかなり意識した大会

前回のアジアパラでは単複ともに銀メダル。そのため、今大会もメダルを意識し、日本代表の3人でメダル独占することを目標に大会に臨みました。初めてのインドネシアは日本の夏の暑さに梅雨の湿度が加わったような気候でした。
準決勝では、ライバルであり仲間でもある菅野選手と初めて対戦しました。以前から戦ってみたいと思っていたので、やりづらさより楽しみのほうが大きかったです。ただ、ランキングは相手が上なので厳しい試合になると予想していました。
作戦としては、相手がクァードで、1、2を争うほど動きが早い選手であること、また天候の状況から長時間勝負は、体力的に不利になることから、ネットプレーを積極的に仕掛けるなど、チャンスがあればどんどん前に詰めてプレッシャーをかけていこうと考えていました。
しかし、さすがに簡単には決めさせてもらえませんでしたね。“普段だったら決まるのに” “もっと強い球を打たなければ” “さらに厳しいコースを狙わなければ”という意識がプレーの妨げとなり、結果的にミスが増えてしました。
1、2セットとも3-6でしたが、自分がリードしていた時間もあったので勝てない相手ではないという手ごたえは強く感じました。3位決定戦では、手のうちを知り尽くす諸石選手と対戦。自分の力を出し切ることができれば勝てる自信はありましたが、現地の気候にうまく順応できなかったことと、ボールが跳ねやすいコートだったため自信をもって振り抜けなかったことが敗困となり、悔いが残りました。
今後の課題はネットプレーの強化、そして新調した用具への対応です。動き出しがすごく軽くなった車いすと、より強い球が飛ぶラケットを完全に自分のものにして、2019年を戦っています。(川野将太)