vol.54(2019.4)【特集】

特集 夢舞台へと突き進む、挑戦者たちの決意

東京2020パラリンピック大会が来年に迫り、各種目での代表選考が本格化している。
それぞれの課題を見つめながら己を信じ、眼前の戦いに挑み続ける選手たちの現在地を負う。


GOAL BALL

□2/1~2/3 天皇陛下御在位三十年記念2019ジャパンパラゴールボール競技大会(千葉県/千葉市)

課題をひとずつクリアしていくだけ/浦田 理恵
来年は金メダルを取る姿を見ていただきたい/小宮 正江

―参加国はすべて世界ランク6位以内。まさに強豪ばかりでした。

浦田
もう、これ以上ないと言ってもいい強化の機会ですよね。

小宮
各国の選手と関係者の方々に本当に感謝です。

浦田
目標は当然金メダル。個人では、その強豪国を失点ゼロで抑えることにこだわっていました。

小宮
バウンドボール対策として修正に取り組んできた守備が強豪国にどこまで通用するのか、しっかり試したいと思っていました。

 

―予選はリオ大会の覇者トルコに2連敗も、ブラジルとアメリカにそれぞれ1勝1分け。
 2位で決勝へ進みました。

浦田
結果的に、トルコ以外に負けなかったことが大きいですね。

小宮
予選の最終戦、アメリカとの2戦目に勝ち、世界ランキング1位であるブラジルに負けなかったことも決勝に進めた大きな要因です。

 

予選で6戦全勝だったトルコとの決勝は0対3でした。

小宮
無得点なんて最近はなかったんですけどね。それに相手もノーミスでした。しかし、さすがに3連敗は悔しいです。

浦田
バウンドボールを意識し過ぎてしまい、グラウンダーを予選以上に多投されてうまく対応できませんでした。
自分の守備範囲も見直す必要があります。

小宮
相手の弱点をついた攻撃ができなかったのも反省点です。コントロールの精度も高めていかないといけません。

 

―今大会の内容、結果をどうとらえていますか。

浦田
目標どおり無失点で抑えられたのは予選の2試合だけ。
これが今の力なのか、まだトップにはなれないのかという悔しさのほうが喜びより大きいですね。

小宮
練習の成果を発揮できて決勝に進めたことはすごくうれしい。でも悔しさでいっぱいです。

浦田
しかし、個人もチームも攻守ともに新たな課題が見つかった分、伸びしろがまだまだあるとも感じています。

 

―観客数は過去最高だったとか。

小宮
日本であんなに声援を受けて試合をしたのは初めてでした。

浦田
すごかったですよね。東京2020大会のいいイメージトレーニングにもなりました。

小宮
私もそうです。日本開幕だからこその応援とプレッシャーの中でどうすればいい状態で試合に臨めるのか、いかにその声援を力にかえられるのか、自分への問いかけを振り返しています。

 

―本番まで1年半、代表決定まで1年。意気込みをお聞かせください。

浦田
日本が金メダルを取るために私が代表に必要な選手だと判断されなければ、東京2020大会の舞台には立てません。
私の強みはディフェンスですが、まだまだ課題も多い。それをひとつずつクリアしていくだけです。

小宮
来年は東京2020大会の舞台で金メダルを取る姿を見ていただきたいと強く思いました。
自分がチームに貢献できることは何かをあらためて考え、心技体それぞれの課題に優先順位をつけながら自分もチームも高めていきます。

 

Result  銀メダル

1位 トルコ
2位 日本
3位 ブラジル
4位 アメリカ

ゴールボールのパラリンピック出場選考基準

[開催予定日/会場] 2020年8月26日~9月4日/幕張メッセCホール
ゴールボール男女チームは、開催国枠として出場権が与えられている。
シーズアスリート所属3名の選手は、2020年3月に日本代表に選出されることで東京2020パラリンピック 大会出場が内定する。


BLIND MARATHON

□2/3 第68別府大分毎日マラソン大会(大分県/別府市)

自己ベスト更新も喜び半分、悔しさ半分。自分自身を信じて可能性を高めていく/山下 慎治

―大会の位置付け、テーマは。

ブラインドマラソンで国内最大のレースです。昨年12月の防府読売マラソンでは終盤まったく思いどおりに走れなかったので、今回は練習の成果をしっかりと発揮して走り切りたいと思っていました。

 

―具体的な目標は。

タイムの目標は第一に自己ベストの更新、第二に東京2020大会出場選考基準の目安となっている2時間42分を切ること。
順位については、出場8選手中、3位を目指していました。

 

―レース運びについては

防府読売マラソンでの悔しさを糧に、1km3分50秒ペースを維持し、30km以降で残っている力を出し切ろうと考えていました。

 

―当日の天候はいかがでしたか。

過去に出場した中で一番よかったです。昨年は雪も降っていましたし、海沿いのコースは風も強く今年もきっと寒いだろうと予想していたのですが、スタート時点で気温13度とマラソンとしては暑いくらいでした。

 

―結果3位で自己ベストを更新、日本歴代4位の好タイムでした。

自己ベストを3分30秒も更新できたことは率直にうれしいし、日本ブラインドマラソン協会からも評価していただきました。
でも欲を言えば2時間42分を切りたかった。あと1分30秒…だから喜び半分、悔しさ半分ですね。

 

―1分30秒の壁は厚い?

ハーフ通過時点で42分を超えると踏んでいたんです。しかし、30~35kmでアップダウンと向かい風の影響で少しペースが落ちてしまった。
それを挽回しようと思っていた35?以降も、予報と違って追い風にならなかった。そこでもう少し頑張っておけばという思いもありますが、無理をするとどうなるかわかならない。だから難しい判断でしたね。走り終えた実感としては、突破できないタイムではないと思っています。

 

―そのほかの収穫と課題は。

アジアパラ5000mの金メダリストでマラソン出場2回目の唐沢選手、昨年まで自己ベストが同じだった米岡選手といったライバル選手にタイム差をつけて勝てたことは評価できると思います。
課題は、いかに練習の質を高めていくかですね。伴走者不足の状況に代わりはありませんが、柔軟性や体幹の強化に励みながら、状況に応じて内容も見直していきます。

 

―東京2020大会の選考レースは。

昨年出場したロンドンマラソンは代表に選ばれないと出られませんが、国内の3つの選考レースにはすべて出場する予定です。
今回の1位が2時間26分台、2位が34分台なので、少なくとも35分台で走れる力がないと東京2020大会の出場は厳しいとみています。

 

―今後への意気込みを。

これから今まで以上に合宿が増えて、状況もハードになっていきますが、“自分が絶対に行くんだ”という気持ちで取り組まなければ、ほかの選手には勝てないと思っています。自分自身を信じて絶対にあきらめず、日々できることを全力で取り組み、可能性を高めていきます。期待してください!

 

Result  銀メダル

3/ 8人中
(視覚障がい者選手)
記録:2時間43分30秒
(自己ベスト更新)

ブラインドマラソンのパラリンピック出場選考基準

[開催予定日/会場] 2020年9月6日/新国立競技場 (オリンピックスタジアム)
2時間42分を突破することが最低条件。2019年4月に開催されるロンドンマラソン、国内大会の北海道(8月)、防府読売(12月)、別府大分(2月)の結果によるポイント上位者3名が選考対象となる。


WHEELCHAIR RACING

□1/20~1/22 Canberra international Track meet (Summer Down Under)  (オーストラリア/キャンベラ)

今回の記録を通過点として年内もう一度自己ベストの更新を/小西 恵子

―大会の位置付け、テーマは。

タイムを狙うというより、今年のメインレースと考えている5月のスイス遠征に向けて、2019年の初戦でどれだけ走れるのかを確認する場と位置付けていました。

 

―大会直前に沖縄で2泊3日の合宿を行った理由は。

オーストラリアは日本と季節が真逆なので、暖かい場所で一度体を動かして臨みたかったからです。

 

―オーストラリアへ遠征することで冬場の練習期間が例年より短くなるわけですが、その不安は?

確かにありました。でも1月の割には動きが良く、例年より早く仕上げた影響も感じませんでした。

 

―現地の状況はいかがでしたか。

昨年5月に100mの自己ベストを更新しましたが、その前の記録は、2013年のオーストラリアの記録で、5年間更新できずにいました。
だから競技場のトラックが少し硬めで良いタイムが出やすいことや、100mでは追い風の場合が多いこともわかっていて、実際に今回もこれ以上ないくらいとても走りやすい状況でした。

 

―結果は200mで5年ぶりの自己ベスト更新、100mも自己ベストと日本記録を0.01秒上回りました。

これからは少し落ち着いてトレーニングに取り組める、というひとつの安心材料になりましたね。
というも、昨年出した自己ベストは東京2020大会の標準記録期間外です。だから期間内である1月にその記録が出たことで、今後は少し気持ちにゆとりを持てそうです。とはいえ、そうとも言っていられません。

 

―手放しでは喜べない?

そうなんです。確かに自己ベストを更新できた。しかしそれは今回良い条件が揃っていたからで、どの競技場でも安定して良い結果を出せる力があるとは正直言えません。ずっと好調を維持できていると言っても、トラックが柔らかい国内の競技場では、スイスでの自己ベストを上回れていない。
世界トップレベルの選手は環境に関係なく安定して速いですから。それに、東京2020大会の参加資格ランキングは4月からの1年間なので今回の記録は反映されない。だから、もう一段階上げていかないといけないという危機感もあります。

 

―そのほかの収穫は。

ひとつは今回100mを3本走って、今まで勝ったことのないカナダのDupont 選手にすべて勝てたこと。
もうひとつは映像で見ても実際に走っていても、自分の前を走っていた選手が今までのように遠くに感じられなかった、手の届かない領域ではないと思えたことです。

 

―今後の出場予定は。

5月中旬から6月上旬のスイス遠征、7月に2大会出場予定です。
11月の世界選手権の選考にもかかわってくるので、代表に選ばれる成績を出すことが重要になってきます。

 

―東京2020大会選考への意気込みを。

今回の記録を励みに、でもあくまで通過点として年内にもう一度自己ベストの更新を目指します。 最終的な目標は17秒前半あるいは16秒台。課題を一つひとつクリアしながら、しっかりとトレーニングを積んでいきます。

 

Result

[100m]
5位/14人中(車いす女子)
記録:17秒68
(日本記録及び自己ベスト更新)

[200m]
4位/12人中(車いす女子)
記録:31秒77
(自己ベスト更新)


同じクラスの男子選手と競い合い、もっと速くなりたくて/城間 圭亮

―1月から活動拠点を沖縄から長崎県諫早市に移した理由は。

競技力が伸びずに悩んでいたので、思い切って環境を変えてみようと思い決断しました。
これまで副島選手のチームの合宿に2回参加し、練習環境が良かったこと、自分と同じT54クラスの男子選手と切磋琢磨できることに魅力を感じました。

 

―迷いはありませんでしたか。

沖縄を離れて生活したことがなかったので不安や悩みもありました。家族や友人、シーズアスリートのメンバーなど多くの人にたくさん相談もしました。それでも、もっと速くなりたいという気持ちが上回ったんです。

 

―新生活はどうですか。

ひとり暮らしは専門学校時代に経験していたのですが、正直言って最初は寂しかったです(苦笑)。

 

―トレーニング状況は。

オフの日曜を除いて毎日走っています。憧れの副島選手や、仲間でありライバルでもある同じクラスの選手がいるのでモチベーションが上がりますね。競技面だけではなく生活面についてもいろいろ教えていただいたり、情報交換をしたりなど、ワクワクした気持ちで過ごしています。

 

―今後はずっと長崎で?

期間は決めていません。
でも長崎でしっかりと力をつけて競技力を伸ばし、大きく成長した姿を沖縄の皆に見てもらうことでいつか恩返しをしたいと思っています。

 

―東京2020大会への意気込みを。

来年というより、新しい環境でしっかりとトレーニングを積み、一つひとつの大会と向き合っていきます。
まずは100mでの自己ベスト更新。そして100m強化指定B標準記録(T54)である14秒45を突破目標に精進します。


特別サポート選手/副島正純 活動報告

□3月3日 第13回東京マラソン2019(東京都)

Result
8位/26人中
(車いす男子)
記録:1時間41分04秒

2019年最初の大会は東京マラソンとなり、今年から3月開催になったことで例年より暖かくなると思っていました。しかし、スタート前から雨が降り始め、気温も低く寒さとの戦いでした。
車いすの部では11名が途中棄権する事態のなか、なんとか完走できましたが、8位と悔いの残る結果に終わりました。
次の大会は4月のボストンマラソンに出場します。
今回課題となった寒さ対策を含め、しっかり調整していきます。(副島正純)

車いす陸上・車いすマラソンのパラリンピック出場選考基準

[開催予定日/会場] 2020年8月28日~9月5日/新国立競技場(オリンピックスタジアム)
車いす陸上
選考期間中(2020年8月2日まで)に各クラスに設けられた標準記録突破が最低条件となり、各クラスのランキング上位者が推薦される。
その他、2019年11月に開催される世界選手権1位、2位の選手も推薦対象となり、推薦順位上位の選手から国枠数に準じ選出となる。

[開催予定日/会場] 2020年9月6日/新国立競技場(オリンピックスタジアム)
車いすマラソン
2019年11月世界選手権2位以内は内定。
国際選考大会は2019年11月の大分国際車いすマラソンと2020年3月の東京マラソンの日本人1位が内定となる。


GOAL BALL

□1/13~1/14  2019 Goalball Japan Men’s Open (千葉県/佐倉市)

失点を減らし、激しさを増す代表選考を勝ち抜く/信沢 用秀

―大会位置付け、テーマは。

東京2020大会に向けた強化試合のひとつです。
特に今回は若手に経験を積ませるため、若手、中堅、ベテランをバランス良く振り分けた2チームで臨みました。

 

―プレーでの目標は。

チームも個人も失点数を減らすことで、1試合2失点以下を目指していました。
昨年の世界選手権で日本は1試合平均の得点が7点で失点は9点。決勝トーナメントに進出した国と比べると得点は大差がありませんが、失点は4点、優勝したブラジルは3点以下なんです。
いくら得点できても、失点が上回れば当然勝てませんからね。

 

―今大会の内容、結果をどうとらえていますか。

私のジャパンBは4勝1敗で、海外の国には負けませんでしたが、戦力的に下だったジャパンAに10対0でコールド負けしたことが問題です。
負けられない気持ちが劣っていたこと、得点できない焦りと、失点してしまった動揺の積み重ねが原因だと思っています。
でも見方を変えれば、選手の底上げが進んでいると言えます。

 

―東京2020大会選考への意気込みを。

少なくとも失点を3点以下、できれば2点台に抑えないとメダル獲得は難しいと思っています。
今までと違い代表入りが確定している選手は一人もいない状況で、キャプテンの自分でさえ危機感があります。
でも日本代表チームとしては喜ばしいこと。本番まで1年半、代表決定までの1年、後悔が残らないようやり切ります。


WHEELCHAIR TENNIS

最後の挑戦というくらいの覚悟で1年間戦い抜いていく/川野 将太

―飯塚国際車いすテニス大会の位置付け、テーマは。

地元開催なのに毎年結果を出すことができず、特に昨年は1回戦敗退だったので初戦突破を最低条件に、シード選手を倒すことが目標です。
東京2020大会出場に向けたランキング争いの対象ではありませんが、今後1年間の戦いに弾みがつくプレーを心がけます。

 

―このところ重視しているネットプレーを今回も仕掛けていく?

挑戦しない限り格上の選手に勝てないし、今後の伸びしろもありませんからね。
相手にプレッシャーを与えつつ、自分が前へ出やすいボールを打つ。殻を破るため、自分の取り組みを信じて積極的に貫き通していきます。

 

―その精度、手応えは。

健常者のコーチとの練習試合でゲームやセットを取ることができているので、手応えは感じています。

 

―雇用先の変更、そして結婚。心境などの変化はありますか。

社員の方々とテニスの練習会を通じて交流できることが新鮮で、とてもうれしいです。
また、家族を持ったことで今まで以上に競技に集中できていると思います

 

―東京2020大会への意気込みを。

これから遠征が続くのでしっかりと体調を管理しながら、今回が最後のパラリンピック挑戦というくらいの覚悟で、やり残したことがないよう1年間戦い抜いていきたい。そして出場を通過点として、過去出場した2大会での悔しさを糧にさまざまなプレッシャーをはねのけ、メダルを勝ち取ります。

 

車いすテニスのパラリンピック 出場選考基準

[開催予定日/会場] 2020年8月28~9月5日/有明テニスの森
2019年5月から出場した大会のうち獲得したポイントの高い上位7大会のポイントの合計でランキングが決まり、2020年5月付けの世界ランキング12位までがダイレクトで出場権が得られる。また、ITF国際テニス連盟特別枠として4名が推薦され、合計16名がトーナメントで競い合う。