vol.56(2019.11)【競技報告】

競技報告 挑戦者たちの胸中


守りの姿勢では意味がない、常に上を目指して挑んでいくしかない。/川野 将太

―マレーシアへ遠征した理由は。

世界ランキングに反映されるポイントは大会のグレードが上位ほど高く、東京2020大会の選考期間はそうした試合にトップ10クラスの選手の大半が出場するので、2回戦や3回戦での敗退が増えてしまいます。それで強豪があまり参加しない、グレードが下位の大会で優勝、準優勝してポイントを補うため、また個人としての自信に繋げるため出場しました。

 

―決勝進出以外はポイントなし?

ゼロではありませんが、2大会ともグレードが下位のITF3 シリーズなので全体的にポイントが低く、決勝まで進まないと高いポイントを獲得できないのです。

 

―シングルスは2大会とも格下選手に完勝で決勝へ進みました。

気温も湿度も高かったので、試合を長引かせて無駄な体力を消耗しないよう初戦から攻撃的なプレーを心がけました。今回試してみた、ボールにスピンがかかりやすく威力も増やすポリガット(ポリエステル製のガット。以下、ポリガット。※ラケットに縦横張り巡らされているガットは、ポリエステル素材やナイロン素材、縦横それぞれ素材を変えるなど選手によって様々)の効果もあって自分のペースを守り、実力どおりに勝ち切ることができました。

 

―結果は、準優勝。どちらも諸石選手にストレート負けでした。

勝てない相手ではないので悔しさはありますが、2戦とも負けた事実は素直に受け止めないといけません。しかし決勝進出という最低限の目標は達成できたし、2大会目の方がより良いプレーができたとポジティブにとらえています。それに攻撃的なプレーにはポリガットが必要だと再確認することもでき、確実に良い方向には向かっていると感じています。

 

―過去にポリガットは経験済み?

縦か横のみ使う、いわゆるハイブリッド張りで使っていました。

 

―今後はポリガットのみで戦う?

ポリガットは反発性が高い分、ナイロンガットより腕への負担が大きいんです。実際、2大会目のダブルス決勝では手に痛みが出てしまいました。今後どうするのかは、練習や試合でいろいろと試しながら考えていきます。

 

―ダブルスは、諸石選手との第1・第2シードのペアで連続優勝。

アジアで負けるわけにいきませんからね。

 

―リオ・パラリンピック出場を目指していた4年前と比べて、心境などに違いはありますか。

実力や体力は上がっていると思いますが、若い選手が台頭していて4年前よりランキングが下なので、状況はやや厳しいですね。だから4年前と同じように、いかにランキングを維持していくかという守りの姿勢では意味がありません。 常に上を目指して挑んで行くしかない、という気持ちです。

 

―4年前より不安が大きい?

というより、ロンドン・パラリンピック 出場を目指していたときに戻ったような、まったく出場を狙えないようなランキングから駆け上がっていった時の挑戦者としての心境に近い気がします。

 

―ランキングによる代表争いは来年6月まで続きます。

焦らずケガをせず、後悔のないよう遠征を回りながら自分のテニスを心がけ、自分のペースで確実にランキングを上げていきます。

 

MATCH WHEELCHAIR TENNIS [車いすテニス]

Result

□KL Open (マレーシア/クアラルンプール)
(8/24~8/27開催)

Malaysia Open (マレーシア/クアラルンプール)
(8/29~9/1開催)

両試合ともに シングルス準優勝 ダブルス優勝


17秒台を出せる回数が増え、競技力のベースが上がってきているのは確か/小西 恵子

―大会の位置付け、テーマは。

この先を見据えて今シーズンのうちにもう1本走っておきたくて、今年最後のトラックの大会に出場しました。世界選手権への道は絶たれてしまいましたが、引き続き東京2020大会の選考期間であるため、世界ランキングを上げることを目標にしていました。

 

―世界選手権出場を逃し、心境などに影響はありませんでしたか。

今年最も重要だと位置付けていたスイス遠征でその出場標準記録を突破できなかったショックは大きく、実はオーバートレーニング症候群に近い症状が出て眠れなくなったり、食欲が落ちて体重が減ったりと体調を崩してしまいました。それほどスイス遠征に照準を合わせて調整していたので、終わって一度に疲れが出てしまったのだと思います。

 

―とはいえ、7月のジャパンパラ陸上競技大会では国内の公認大会で自身初の17秒台。自己ベストまで0.01秒に迫る好タイムでした。

心身ともにきつい状況の中、ある意味開きなって出場しましたが想像していたよりも良いタイムを出せ、7月末時点ですがランキングが9位から8位に上がりました。大事な時期に競技力が落ちてしまったら・・・という不安もありましたが、何とか立て直すことができました。

 

―どうやって立て直した?

たくさんの方に助言をいただいたのですが、正直何が正解かわからない手探り状態でした。ただ、賭けでもあったのですが完全に練習をやめることなく、体調を確認しながら続けたことが良かったのかもしれません。ジャパンパラで気持ちを切り替え、コンディションもある程度まで高めてフランスへ向かいました。

 

―フランス大会での結果をどうとらえていますか。

以前は環境や条件が整わないと17秒台で走れなかったのですが、年々17秒台を出せる回数が増えているので、競技力のベースが上がってきているのは確かです。今回も車いすにとって決して走りやすいとは言えない競技場でしたが、予選ながら17秒台で走れた点では良かったと思っています。

 

―大会を終えて感じた課題は。

東京2020大会と同じく午前に予選、午後に決勝と2度走って2本目のタイムが落ちているので、また力が安定していなことを実感しました。もうひとつ、17秒台を出せる回数が増えている要因はスタートの向上にあるとみているのですが、それでもまだ改善の余地がたくさんあります。
今回も予選で感じたスタートでの課題を決勝で修正しようとしましたが、柔軟にそれをどう修正していくかですね。

 

―本番まで1年を切った心境は。

“出られたらいいな”という気持ちでは夢がかなわないと身に染みて感じているので、自分に厳しく結果を求めていきます。来年1月のオーストラリア遠征までの期間は、夢に向けて一番の正念場。必死になってやるべきことに集中し、皆様への恩返しとして東京で走る姿を見ていただきたいです。

 

MATCH WHEELCHAIR RACING [車いす陸上]

Result

Paris 2019 World para Athletics Grand Prix-Handisport Open Paris

・100m 2位/8人中 (18秒44)
・200m 2位/8人中 (33秒06)

※T53・T54混合レース (小西選手はT53クラス)


練習拠点を変えて成長を実感。初出場のソウルマラソンでは自己ベスト更新/城間 圭亮

短距離シーズン終了後、毎日のように40km走り込んできた成果を確かめるため2週間連続でハーフマラソンに挑戦しました。3年ぶりの出場となるはまなす車いすマラソン(以下、はまなす)での目標は自己ベスト(51分00秒)の更新。
何とか先頭集団についていこうと自分が得意としている瞬発力を生かしてスタートしましたが、2km付近で離されてしまい、雨が降ったりやんだりした影響もあって今までで最もつらいレースとなりました。“もっとやれたのではないか”と思う一方、苦しい展開の中でほぼ単独走だった割に記録はまずまずで、練習拠点が長崎に移り共に練習させてもらう中で、成長の手ごたえを実感できました。

今年初の海外レースであり初出場のソウル国際車いすマラソン大会(以下、ソウル)では、改めて自己ベストを目指して挑みました。コースがフラットで道幅も広く走りやすかったことも幸いして先頭集団に食らいつくことができ、6km付近では初めて自分から仕掛けてわずかながら先頭に立った時間もありました。そして最後まで集中力を切らすことなく、自己ベストを更新。はまなすのリベンジを果たすことができました。レース中の位置取りは、練習では感じることが難しい感覚なので、レースならではの難しい位置取りを経験できたことも大きな収穫となりました。
しかし、もっともっと頑張らなければならない立場なので、皆様に少しでも良い報告ができるよう1月のオーストラリア遠征までさらに練習に励み、自信を深めます。

MATCH WHEELCHAIR MARATHON [車いすマラソン]

Result

⬜️8/25 第30回はまなす車いすマラソン2019(北海道/札幌市)

6位/ 29人中 (52分25秒)

⬜️9/1 第27回ソウル国際車いすマラソン大会(韓国/ソウル)

ハーフマラソン4位/22人中 (50分00秒)


結果には結びつかなかったが、久々に自分らしい走りができそうな予感/特別サポート選手 副島 正純

東京2020大会を見据えて8月から、専門が異なる2人のトレーナーとともに量より質を重視した新たなトレーニングを開始。その手ごたえをつかむため、今の力をすべて出し切ろうと考えていました。はまなすでは4km付近まで先頭を走れていたのですが、いつものように自分のペースをつくれず、また後半も伸びがなく踏ん張り切れずに後続に抜かれ、昨年の記録を7分以上下回る結果に。
ソウルでのフルマラソンは何か手を打たないとさらに厳しい戦いとなると考え、ハンドリム(後輪の外側についているレーサーを漕ぐためのリング)を1cm小さくしてレースに臨みました。その効果は感じられたものの10km付近までは周りのペースについていくのに必死で、何度仕掛けても振り切れず、最後は6人の第2集団によるトラック勝負で敗れました。

新たなトレーニングを始めて日が浅いこともあって結果には結びつきませんでしたが、完調ではない中である程度前へ出ることができ、トラックで完全に取り残されることもなかったので、久々に自分らしい走りができそうだと感じています。 自分のことに専念し、100パーセントの努力で完全燃焼できない限り代表入りは厳しい。そう自覚して、最終選考となる来年の4月の世界選手権に照準を合わせて最善を尽くし、まずはその出場権を11月の大分国際車いすマラソン大会で勝ち取ります。(副島正純)

MATCH WHEELCHAIR MARATHON [車いすマラソン]

Result

⬜️ 第30回はまなす車いすマラソン2019

4位/29人中 (47分50秒)

⬜️ 第27回ソウル国際車いすマラソン大会

フルマラソン6位/34人中 (1時間26分58秒)


走力は去年より確実に上がっている。失敗を糧に必ず結果を残します/山下 慎治

合宿で昨年以上に走りこんで臨んだ今大会は2時間45分以内を目標に、展開次第で自己ベスト(2時間43分30秒)の更新を狙っていました。
スタート時点で気温18度と例年になく涼しい中、予定どおりペースで走れていたのですが、25km付近で胃が痛み始めると30kmの給水後に嘔吐。その後も回復せず、最後の10kmほど歩いて完走しました。おそらく内臓疲労で、過去に練習で同じ症状が出たことはありますが、レース中は初めて。原因は朝食が消化できていなかったり、給水が適量でなかったり、練習での疲労が残っていたりと複数考えられるほか、初の選考大会ということで無意識のうちにストレスや緊張を感じていた可能性も否定できません。

今後、内臓の上下動が少ないフォームに改善するなどの対策を練っていきます。今回の上位選手の記録から、最終選考となる来年2月の別府大分毎日マラソンで自己ベストを最低でも10分縮めないと代表に入れない現実を突きつけられましたが、決して悲観はしていません。
走力は昨年より確実に上がっているし、改善の余地も多いのでもう1段階、2段階上の練習に励んでいきます。次回は12月の別府読売マラソン。
昨年は低体温症になってしまったものの、その次の大会で自己ベストを更新できたので、今回も失敗を糧に必ず結果を残します。

MATCH BLIND MARATOHN [ブラインドマラソン]

Result

⬜️ 8/25 北海道マラソン2019 兼 東京2020パラリンピック視覚障がいマラソン代表推薦選手選考大会 (北海道/札幌市)

11人中8位(3時間38分49秒)