vol.57(2020.1)【特集】

— 約束の地へ、挑戦者たちのラストスパート

ついにパラリンピックイヤーが到来した。 代表争いは折り返しを過ぎ、競技によっては間もなく大詰めを迎える。
それぞれの戦いの中で選手たちは今、何を思うのか。

[テーマ]

①2019年の目標に対する自己評価
②東京2020大会の代表選考の状況、現在の心境
③代表内定の条件、残された期間での課題
④東京2020大会に向けての決意


ゴールボール男子 強化指導スタッフ [工藤 力也]
選手たちが結果を残せるための環境を整えて行きたい

―マレーシアへ遠征した理由は。

①昨年は、東京2020大会代表選考期間に入ったこともあり、各選手たちが代表内定に向けて競技に専念し、悔いのない毎日を送れる環境を提供したことでシーズアスリートリーダーとしての目標は達成できたと思っています。ゴールボール男子日本代表のアシスタントコーチとしては、チーム強化の体制や方針が変わって東京2020大会での金メダル獲得を目指す中、元選手というほかのコーチにない自分の持ち味をいかしてできることを常に考え、選手の成長を後押しできるよう努めてきました。

実際にチームは世界ランキングベスト8以内に入っている強豪国に勝ったり、東京2020大会の出場枠を獲得している国と引き分けたり、僅差のゲームができたりと今まで苦戦ばかりしていた国々と対等に戦えるレベルにまで上がってきています。2年前、1年前より確実に強くなっている手ごたえを選手ともども実感できた一年でした。

また、すべての海外遠征に帯同し、状況に応じて選手にアドバイスを送り、精神面でもフォローできたと思います。

③代表選考の結果は、競技によっては2月、遅くとも半年後には出ることになります。今年も引き続き選手たちが目標達成に向けて悔いが残らない時間を過ごし、結果を残せるための環境を整えていきたい。また、誰かが壁にぶつかった時には相談をしてもらい、活力になるようなアドバイスを送れるようにしていきたい。
コーチとしても、シーズアスリートのみんなと同様に東京2020大会の舞台に立てるよう頑張ります。

 

―シーズアスリートを代表して年始のごあいさつ

新年明けましておめでとうございます。私たちは会員の皆様のご支援のおかげで仕事と競技を両立できる環境をいただき、多くの叱咤激励によって力を得ています。これほどまでに恵まれた環境を持ち、これだけ多くの選手が所属するチームは国内でシーズアスリートだけだと感謝しています。私たちにとって、ひとつの集大成となる2020年に各選手が結果を出し、皆様に恩返しをさせていただくことでリーダーとしての使命を果たしたと言えます。これから夏にかけて代表内定の報告を楽しみにお待ちください。

そして、本番ではひとりでも多くの方々に会場へ足を運んでいただき、目の前で直接選手たちを応援していただけたら嬉しいです。本年もよろしくお願い申し上げます。

 

2020年の一文字抱負 『繋』

2020年はひとつの集大成。でも、それで人生が終わるわけじゃない。それぞれの”次”にぜひ繋げてほしいし、自分もそうありたい。


〔ゴールボール〕 小宮 正江
もっとうまくなれる、強くなれると自分に言い聞かせながら練習に励む

①昨年の目標は、個人として東京2020大会の代表内定を勝ち取ること。代表選考の日程などの関係で私を含め獲得できている選手はいませんが、合宿や大会のたびに出てくるさまざまな課題を一つひとつクリアしながら、代表内定に一歩ずつ前進できているという手ごたえを感じています。

②代表選考は最大で3回行われ、まずアジアパシフィック選手権大会(以下、 AP大会)で3〜4名、残りの枠を今月のフィンランド遠征で選出し、それでも代表6名が決まらない場合は3月のカナダ遠征に持ち越される予定です。私は昨年4〜5月のトルコ遠征と5〜6月のスウェーデン遠征でのプレーが評価されて、9月のジャパンパラゴールボール競技大会(以下、ジャパラ)と12月の AP大会に派遣され、実力をある程度発揮できたと思っています。代表に近づけている実感はありますが、選手それぞれが確実に実力を上げてきているので、最後まで気をぬかずに代表を勝ち取りたいと思います。

③自分の課題をどう克服していくか。チームの戦術をいかに理解して自分の役割を果たすことができるか。それが代表選考の大きなポイントになります。私自身も課題は多く、スローイングの助走数を減らしたり、ディフェンスでは床におしりをつけた姿勢に変更したり、ポジションもライトでだけではなくレフトの練習に多めに取り組んだりと、あらゆる面で変化していかなければなりません。目指すプレースタイルを実行できたりできなかったりの繰り返しですが、だからこそもっとうまくなれる、強くなれると自分に言い聞かせながら日々の練習に励んでいます。そしてあくまで挑戦者として、強気のメンタリティーを持ってその時々で最高のパフォーマンスを発揮できるよう、コンディションを含めて調整して行きます。

④東京2020大会は会員の皆様をはじめ、仕事や競技でサポートしてくださっている方々に日ごろの感謝の気持ちを伝えるこ とができる大きなチャンス。これまでやってきたことをコートで出し切って本番の舞台に立ち、結果を残すことで恩返しをしたいと 思っています。そして、ひとりのアスリートとしてパラスポーツの魅力と可能性を伝え、多くの方々を元気に、笑顔にできる一年 にしていきたいです。

2020年の一文字抱負 『

ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために。ラグビーの精神にならって絆を大切に、チーム一丸となって金メダルをつかむ。


〔ゴールボール〕 浦田理恵
失くしたはずのチャンスが!毎日を丁寧に過ごすことが大事

① 結果を出して個人の代表内定をいただくことが昨年の目標でしたが、それどころか、そのチャンスをひとつ逃してしまいました。代表選考は第1弾として、昨年行われた5〜6月のスウェーデン遠征の内容を踏まえて9月のジャパラと12月のAP大会の出場選手6名が選ばれ、そのうち3〜4名が内定を得ることになっていました。しかし、私はスウェーデン遠征でセンターの役割を十分に果たせず、ジャパラとAP大会のメンバーから外れることに。代表落ちは初めてで”これが今の自分の力なんだ”と落胆し、すごく思い悩んだ時期もありました。それでも本当に多くの方々から励ましの声をいただき、また”絶対にミスしてはいけない”という気持ちが逆に自分の動きを固くしていたことに気づき、当たり前のことを一つひとつ丁寧にやっていこうと決めたら心が少し楽になり、練習の質も上げて行くことができました。

②ジャパラに出場する予定がなかった私ですが、不参加の中国にかわって日本が2チームに分かれて出ることになり、失くしたはずのチャンスが舞い込んで来ました。その本番ではチームに貢献できたという手ごたえを感じられ、代表選考の第2弾となるフィンランドへ遠征します。そこでのプレー次第では代表内定への大きな一歩になりますが、それで代表6名が決まらなければ3月のカナダ遠征が最終選考となります。

③多くの課題がある中で、オフも含めきちんと計画を立てて優先順位をつけながら毎日を丁寧に過ごすことが大事だと思っています。これまで以上に自分自身と対話しながら今何が必要なのか、どうすれば後悔しないのか、いかにチームの力になれるのかを考え、決め、実行する。それに尽きます。

④山あり谷ありだった2019年は、会員の皆様をはじめ周りの方々がいかに私の背中を押してくださっているのかを再確認し、またこんな自分でもまだ成長できると思えた一年でした。今年はいただいた力を行動と結果でお返ししていきたい。そしてパラリンピックをもっと身近に感じてもらい、2020年以降につなげていくため必ず本番のコートに立ち、大会を盛り上げます。

2020年の一文字抱負 『

すべての結果は行動から。できていなかったことや、やってみたいことを行えばきっといい結果が出る。新しい自分に会いに行きたい。


〔ゴールボール〕 信沢 用秀
攻守ともにひと工夫を加えて生き残りを懸ける

①昨年は、何より結果にこだわることを目標にしていました。私たち選手自身がすべての強化遠征で結果を残し、”これまでの取り組みは正しかったんだ”と確信を持てなければ、男子日本代表チームが東京2020大会で金メダルを取るという目標は達成できないと考えたからです。実際にチームとしては、2018年の世界選手権後に東京2020大会までの強化ポイントを絞り込んだこともあって、リトアニアやドイツなどの強豪国との距離を縮められたという手ごたえを感じています。
しかし、これは個人の反省にもなりますが、勝てたはずの試合が負けや引き分けになるなど、詰めの甘さやゲーム運びのもろさが出てしまうこともあったので、結果にこだわるという目標に対する評価は良し悪しが半々だと思っています。

②代表選考は12月のAP大会で3名が、その後しばらく遠征がないため3月のブラジルでの合同合宿で残りの3名が内定を得るという流れです。しかし私は AP大会に出場することができませんでした。昨年7月末、右肩に負担をかけ過ぎて故障してしまい、スタッフと相談してチームを離れて回復に専念したからです。従って、私には東京2020大会の代表になるチャンスが一度しかありません。チームメイトの活躍、実力が上がることはとても嬉しく思いますが、代表枠が減るという点では複雑な気持ちで正直焦りもプレッシャーも感じています。
しかし、一度でもチャンスがある限り最後まで諦めません。

③肩の故障のため発揮できなかった安定度の高いプレーや正確なショットなど自分のプレースタイルを取り戻して維特すること、そして攻守ともにひと工夫を加えて強化することで生き残りを懸けます。

④今年は代表メンバーに選ばれることが最優先ですが、実際にそうなっても本番までの間に個人、チームともども強化を継続していく必要があります。最終的に代表に選ばれるのか、サポートに回るのかはわかりませんが、いずれにしてもチームが金メダルを取れるよう全力を尽くします。

2020年の一文字抱負 『頂』

これまでで一番強い自分、一番強いチームになる。優勝から遠いのいている国内でも、パラリンピックでも頂点を取る。


〔ブラインドマラソン〕 山下 慎治
チャレンジャーとして、自分を信じて力を出し切るだけ

①昨年の目標は、東京2020大会の代表内定を勝ち取ること。そのために取り組んできたことに大きな間違いなく、一昨年よりもいい感じで計画どおりに練習できました。しかし、私にとって初の代表選考レースとなった8月の北海道マラソンは不本意な結果に終わり、目標を達成することができませんでした。自分の実力を発揮できなかったことを反省しています。

②代表3枠のうち2枠が埋まっていて、基本的には最終選考となる2月の別府大分毎日マラソン大会(以下、別大マラソン)で残り1枠を争うことになります。

③代表入りするためには、別大マラソンで代表内定者2名を除く日本人トップでゴールするしかありません。そのタイムも重要で、東京2020大会の参加標準記録はまだ発表されていませんが、リオの参加標準記録2時間42分00秒より上がる可能性があり、また北海道マラソンの上位記録と合わせて考えれば、あくまで目安ですが最低でも2時間33分を切る必要があるとみています。昨年12月の防府読売マラソン大会で更新した自己ベスト、2時間39分13秒を6分以上短縮しなければならない。これまで自己ベストを1年間で3〜4分更新してきたとはいえ、状況は厳しく相当頑張らないといけないのはわかっていますが、自分を信じてやるだけ。練習仲間でライバルでもある選手がトラック種目で自己ベストを更新したので、まだまだ自分にも可能性はあると励みになっています。

④来月の別大マラソンで代表内定を勝ち取ることが維一にして最大の目標です。最大限に努力して全力でぶつかり、それで結果的に及ばなかったとしてもまだ納得できるし、2020年以降も続く競技人生、そしてさらなる記録更新につなげられると思っています。支えてくださっている会員の皆様からの期待にこたえるためにも、とにかく悔いが残らないように日々の練習に打ち込みながら調子を万全に整え、本番で力を出し切ります。

2020年の一文字抱負 『虹』

オリンピック・パラリンピックといえば、ゆずの「栄光の架橋」。それで思い浮かんだのが虹。これまでとこれからの競技人生に美しい虹を。


〔車いす陸上〕 小西 恵子
夢をかなえなくてしょうがない。それが素直な気持ち

①昨年の目標は、世界ランキング6位以内という東京2020大会出場の条件を満たすことでした。7月のジャパラ終了時点では8位でしたが、結果的に11位。私にとって高いレベルの目標なので簡単なことではないとはいえ、世界選手権の出場基準記録を突破できなかったことと合わせて現実は受け止めなくてはいけません。しかし、対象期間外なのでランキングに反映されていませんが、日本記録の自己ベストを出したり、17秒台で走れる回数が増えたりとむしろ実力的に上がってきていると感じた1年でした。

②少しずつ成長できて、もっと記録も伸びるだろうという手ごたえもあります。しかし16秒台を出さない限り6位以内には入れず、自己ベスト(17秒68)と差があるのも確かです。そうした現実を受け止めつつ、恵まれた環境のもとで挑戦させてもらい、競技が好きで高い壁に立ち向かっていくと決めているからこそ悲観的にならず、引き続き6位以内を狙っていきます。そのためには変化が必要だと思い、昨年9月から1カ月の約半分は日本トップクラスの短距離選手が集まる岡山に通って練習を続けています。当然ひとりで練習するのと違って大きな刺激を受けるし、自分の課題のひとつである後半のスピードを上げるための練習などもしっかりとさせてもらっています。何かを削ったり犠牲にしたりして通うのではなく、これまでの取り組みに上乗せしてやっているのでさまざまな面で負担は増えていますが、とても良い新たな手ごたえを感じています。

③選考対象期間が終了する4月まで、今月のオーストラリア遠征を皮切りに大会を絞って記録を狙っていく予定です。課題はいろいろありますが、日々自分を追い込み、その積み重ねを結果につなげていくしかありません。

④どんなに状態が厳しくなっても東京2020大会で走りたい。その夢をかなえたくてしょうがない。正直言って気持ちが砕け散りそうになる時もありますが、それが素直な気持ちです。今年も競技人生の集大成だと思って、できることは何でもやる覚悟で最後までブレることなくやり通します。

2020年の一文字抱負 『軸』

2020東京大会という夢に向かって、軸がぶれることなく突き進む。


〔車いす陸上〕 城間 圭亮
可能性がある限りあきらめない。少しでも食らいついていく

①この4〜5年、100mで16秒を切ることがひとつの目標でしたがなかなか達成できなかったので、昨年は活動拠点を沖縄から長崎へ移し、あらためてその目標達成に挑みました。その結果、6月の日本パラ陸上競技選手権大会で初めて16秒の壁を突破して15秒79、また7月のジャパンパラ陸上競技大会(以下、ジャパラ)では15秒63を記録。さらに、ほかの種目でもすべて自己ベストを更新することができました。長崎に来て練習の環境や内容、質のすべてが変わって自分に足りないものに気づかされたり、副島選手からアドバイスをいただいたり、同じT54 クラスで同世代の短距離選手から刺激をうけたことが良い結果につながったのは間違いありません。行く前にはかなり悩みましたが、思い切って決断して良かったと思っています。

②東京2020大会に最も近いのは100m。といっても参加標準記録の14秒70を突破しなければならず、東京2020パラリンピックランキングで最低でも6位以内に入っておく必要があります。16秒の壁をようやく乗り越えた自分がタイムを1秒縮めることはかなり難しく、厳しい状況です。しかし、可能性がゼロでない限りあきらめたくありません。1月のドバイ遠征で絶対に参加標準記録を出し、少しでも食らいついていくという気持ちでトレーニングを積んでいます。

③より実践的な練習を行うことで、最高速度や腕の回転数をどれだけ上げられるかがポイントです。これまで31kmだった最高スピードを35km以上に上げることができれば14秒台もみえて来ます。もともとの課題であるメンタル面も、長崎に移ってからは”ここまで努力してきたのだから”と沖縄にいる時より胸を張って大会に臨めていますが、まだまだ弱いところがあり、副島選手からも「もっともっと練習すると緊張しなくなる」と言われているのでさらにトレーニングに励み、安定して結果を残せるよう頑張ります。

④絶対に東京2020大会に行きたい、可能な限り頑張りたいという気持ちがあります。会員の皆様をはじめ、応援してくれる家族や友人のためにも結果で恩返ししていきますので今年も応援をよろしくお願いいいたします。

2020年の一文字抱負 『変』

さらに前進してより良い結果を出すため、もっと変化する。


〔車いす陸上〕 特別サポート選手 副島 正純
反省ばかりでただ悔しいが、”まだやれる”という自信はある

①昨年の目標は、東京2020大会に向けて結果を残すこと。具体的には11月の大分国際車いすマラソン(以下、大分)で日本人上位3名以内に入り、残り2枠となった東京2020大会の代表選考レースである2020マラソンワールドカップ(以下、W杯)の出場権を勝ち獲ることでした。
昨年8月から練習内容を大幅に変更し、9月後半から確実に状態が上向いていたのですが、10月に左肩と背中に違和感を覚え、さらに手首も痛めてしまいました。おそらくオーバートレーニングだったのでしょう。そのため大分までの約1カ月間は週1回しか練習できず、不安を抱えたまま本番に臨みました。レース中は漕ぎたい気持ちに練習不足の体がついてこないような感覚で、結果は総合10位で日本人6位。反省ばかりでただ悔しいです。

②4月のW杯で残る2枠が埋まるかもしれないし、そうならないかもしれない。とにかく最終決定までは状態がどう変わって、いつチャレンジが訪れるかわからないし、リオの時のようにギリギリでハイパフォーマンス割当枠などの推薦枠をいただける可能性もあります。状況が難しいのは確かですが、来るべき時に備えてできるだけ準備をしていきます。

③W杯で残る2枠が埋まらないとなれば、選考対象期間が終了する8月までにタイムや東京2020パラリンピックランキングを上げておかないといけません。故障を治して筋力アップを図り、選考対象期間中に私より速いタイムを記録している日本の3〜4選手も届いていない1時間23分台を出し、ランキングトップを目指すことになります。体調を整え、さらに自分を追い込んで鍛え直していけば”まだやれる”という自信はあります。

④大分では悔しい思いをしました。しかし、その本番までの約1カ月間まともに練習できなかったにもかかわらず第2集団に最後まで食らいつけたのは、取り組みが間違っていなかったからだと思ってます。故障前に大きな手ごたえを感じていて、その調子を発揮できていれば先頭を走っていたトップ選手たちに絶対ついていくことができたと思えるくらいだったのも現実です。集大成の年、最後まで前向きに挑んで完全燃焼します。

2020年の一文字抱負 『咲』

悔いを残さず納得できる形自分の力を出し尽くし、集大成の年に大輪の花を咲かせる。